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Column
コラム

連載タイトル:リサイクルビジネスのためのDX戦略講座

第6回:「現場DX」について

 

資源循環システムズ株式会社

石田 翔一

 

昨今の労働人口減少に伴う人手不足が、廃棄物処理・リサイクル業界でも顕在化している。その影響は作業現場において特に顕著であり、高齢化による退職や新規雇用の減少とあいまって、技能継承なども難しくなっている。そのため、作業現場におけるDX(以下、「現場DX」という。)の推進が急務となりつつある。

現場DXに期待される主要な狙いは、業務効率化と技能継承の2点である。業務効率化については、IT技術を用いて従来業務のムラやムダをなくすことで、不足している人手分の作業を賄うことが期待される。技能継承については、ベテラン従業員の経験や知識に基づく勘やコツといったいわゆる暗黙知を形式知化したうえで、システム化が可能な部分をシステム化することが求められている。

こうした中、DX推進にあたって、システム会社へその実務を発注する際に、いきなりや現場単位のニーズの積み上げを前提に会社全体へのソリューション導入を試みる企業は少なくない。しかしながら、現場DXの目線から見ると、複雑できめ細かい現場業務をシステム会社に理解してもらうことは現実的でない。現場ニーズの把握はシステム化の前提となる要件定義や設計書を作成する上での必須作業だが、全ての現場の業務内容のすり合わせや調整に係る時間が膨らみ、それに応じて開発コストも当初見込みより大幅に増加するリスクが大きい。会社全体での作業手順の標準化等がDX推進に不可欠であることは間違いないが、現場に特有の作業工程やきめ細かなニーズにまで全社システムが配慮することには無理がある。

例えば、現場DXの効率的な推進に向けて、「aPaaS」と呼ばれる汎用の「ノーコード開発」用クラウドプラットフォームを活用することで、現場単位のニーズに対応する体制整備を行うことも有効ではないかと考えられる。「ノーコード開発」とは、ソースコードの記述をせずにアプリケーションやWEBサービスの開発が可能なサービスを利用した開発技術である。ソースコードの記述が不要であることから、高度な技術を有するエンジニアでなくてもシステム開発は可能となる。現場を熟知している従業員が自ら簡易なシステム開発を行うのであれば、複雑な業務内容を他社へ説明する必要がなくスムーズなアプリケーション導入も可能となる。加えて、身近で小さな業務からのスモールスタートを心がけることで、ローコストかつ短い時間での開発が行える。さらに、当該アプリケーションの有効性を確認したで、将来的に基幹システムの一部として取り込むことを念頭においた場合にも、予め開発環境等を含む一定のルールさえ定めておけば、要件定義などの作業も容易になるはずである。

無論ノーコードとはいえ、既存の現場作業員に突然システム開発を丸々任せることは不可能である。だからこそ、社内での研修や新人確保等を通じて、願わくは各現場にノーコード開発人材を配置する体制整備を目指すことが望ましい。ノーコード開発人材を例えば各現場に1人という形であれば、当該人材に求められる要求水準や採用基準も明確となり、本格的なDX人材の雇用やシステム会社への委託を行う場合と比較するとその敷居は大幅に下がるはずである。

本来、DXは全社的な経営改革を目的に一定のルール化及び標準化を前提に進めるべきだが、現場のきめ細かな業務ニーズをすくい上げつつ、迅速な開発と改善を進めていく上では、現場単位でのリスキリングを含めた人材育成体制整備も一つのオプションになり得るのである。

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