Column
コラム
掲載タイトル:リサイクルビジネスのためのDX講座
第12回:「イノベーションとの共存」について
資源循環システムズ株式会社
代表取締役 林 孝昌
昨年末来、いわゆる「生成AI」への認知度とその普及が急加速している。試しにフリーソフトで「木くずは産廃ですか?一廃ですか?」という乱暴な設問を投げてみたところ、排出源の業種次第となる旨や品目別の事例紹介、最終的に自治体の確認をとるべきとの補足まで丁寧で正確な説明が即座に示された。先端技術の普及により既存の情報価値は確実に破壊されており、業種を問わず専門性の意味と役割を見直すべき時代が来ている。
先端技術は、既存業務の内容に変革を強制する。一定の知識水準と整理のフォーマットを武器にしてきた弁護士や会計士等士業、コンサルタント等の職種は早急に新たな付加価値を見つけるしかない。一方、労働力不足が続く介護や教育、宿泊、輸送といった業種が求めるロボティクス技術は未熟であり、現場の期待に応えられてない。イノベーションの進捗は常に散発的に発生するため、社会課題解決ニーズの強弱とはほぼ無関係である。
こうした不安定で不確実な労働市場において、働き手が生産性を高めながら社会の全体最適にも資する働き方を目指すために求められることは何か?端的に言えば、「イノベーションとの共存」である。イノベーションの本質は既存技術やノウハウ、ビジネスモデルの新結合であり、先端技術と人的スキルの組み合わせでも実現できる。本稿では、この観点からイノベーションとの共存が求められている人間のスキルを検証する。
まず「営業力」は、公開情報だけでは勝負出来ないスキルである。飲食接待の文化は消滅したが、顧客との信頼関係構築を前提にして取引条件と取引価格を定める業務の本質は変わらない。特にリサイクルビジネスでは、一定の目安はあっても定価は存在せず、車両や施設稼働の安定化を前提に重要顧客とスポット依頼には当然の価格差がある。だからこそ、今後は社内的な顧客情報管理徹底と合理的な価格設定が、新たな価値を生むスキルとなる。
次に、「現場力」である。ブルーカラーと呼ばれる作業者の人件費が安すぎる中、突発事象への対応を含む無人化の目途は立っていない。ただし、現場で活用できる先端技術はある。例えば、ドライバーに割り当てる配車管理を最適化するAI導入や選別ロボット導入で無駄な作業は削減できる。更に、現場作業プロセスに則ったプログラミングを現場がノーコードで整備する体制が出来れば、作業者一人当たりの生産性と給与水準は確実に向上する。
最後に、「経営力」である。経営判断は未来を見据えた見識であり、そもそも正解が存在しない。例えば、政府が定めた電源構成が目標年度に達成されるか否かの判断は、結果責任を負う経営者が見極めて投資判断を行う。また、労働力不足が確実な中、人材と設備のどちらに投資するのが賢明かを機械は教えてくれない。先端技術への期待は、例えば社内外のデータと自社KPIを極力リアルタイムで把握して、意志決定の材料にすることに尽きる。
リサイクルビジネスが目指すべきDXの理想像は、先端技術活用を前提とした動脈産業との連携体制整備に尽きる。機械が得意なことは機械に任せ、我々はそれを前提としたスキルセットを更新し続けながら、流動的に常時生産性を高めていくことで、個人や全社レベルの生産性向上を目指すべきである。この姿勢とアプローチこそが、他業種や我が国全体の競争力強化や各種環境課題の解決にも直結するのである。(本連載は終了。)
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