Column
コラム
連載タイトル:DXが加速するGX ―リサイクルビジネスの目線から―
第9回: DXビジョン・戦略により描く未来
資源循環システムズ株式会社
取締役 瀧屋 直樹
担当者が経営層から意味もわからずに「DXに取り組んでくれないか」との指示を受けたことはないだろうか。経営トップがシステム部門などにDX推進を丸投げをする企業は、結果的に失敗に終わる可能性が高い。
DX推進の第一歩として重要なのは、「なぜDXに取り組むのか」、更には「DXで何を目指すのか」を経営者がビジョンと戦略として示すことである。そこで意識すべきは、DXが目指すのはデジタルツールの導入ではなく、ソフトとハードの導入によってどのような企業に変革するか、どのような価値を創出するかである。既存調査においても、「全社戦略に基づきDXに取り組む企業」は、一部部署単独や、部署ごとに独自で取り組んでいる企業よりも、生産性の向上やサービスの高付加価値化・新サービスの創出などにおいてDXの成果が上がっていることが認められている(IPA「IT人材白書2020」)。
経営者が示すビジョンは現状を維持しようとする抵抗を克服し、成功を収める変革に見られる急激な変革を促進する可能性を持つ。ビジョンを変革の基盤においたリーダーシップの発揮無しに企業の変革は実現し得ない。社内で蔓延する「その変革は当社にとって本当に必要なのだろうか」といった疑念を払しょくするのもビジョンの役割である。進むべき方向についての共通理解が存在していない場合には、個々の部署や社員が対立に陥り、果てしない会議を繰り返す結果になる。一方、明確なゴールを伴うビジョンが共有されれば、各個人が何をなすべきかを主体的に判断することが可能となる。大規模な変革には、多くの社員が短期的な自己犠牲をいとわず、変革に協力を惜しまない姿勢を示す実行体制にまで達することが求められる。経営トップからの直接信頼できるコミュニケーションが行なわれなければ、従業員の心をつかむことは不可能である。DXは企業の命運を左右する重要なプロジェクトであり、経営トップ自らがプロジェクトの責任主体となるべきなのである。
DXビジョンに盛り込むべきゴールは、「デジタル化された未来の姿」と「自社の存在意義」である。未来のあるべき姿を描き、そこからバックキャストして潜在的なニーズや課題を明確にして、自社がどのような価値を社会や顧客に対して提供できるのか(存在意義)を社員レベルにまで落とし込む。この際、注意しなければならないのは「AI・IoTを用いて技術革新を図る」といったITベンダー目線で考えるのではなく、社会や顧客の目線に立ち、経営者がどのような価値を世の中に提供したいのかを示すことである。そうすることでDXビジョンは、全社的な「世界観」となり、社内外のステークホルダーに明確な方向性を示す羅針盤となり得るのだ。
DXビジョン実現のためには、何を、どうやって、いつまでにすべきかを戦略として示す必要もある。例えば「デジタル技術を駆使した新たなビジネスモデルへの転換方策」などを具体事例にまで落とし込むことで、関係者を束ねる指針としてのDX戦略を策定目指すべきである。従来のIT戦略は、「システム化方針」など事業部門の要望を踏まえて作成することが多かったが、DX戦略は経営戦略と密接に結びつけることが必須であり、全社レベルでの「変革方針」を盛り込むことが求められる。
以上の通り、DXを企業全体にわたる変革活動として進展させていく上では、リーダーシップとマネジメントが最も重要なファクターであり、むしろオーナー経営の中小零細企業でこそ、その俎上が整っていると言える。ビジョン・戦略を掲げるトップ自らが現場に赴き、ビジョン・戦略を伝える姿勢を示すことにこそ、DX実現に向けた要諦が見出せるのである。
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