Column
コラム
連載タイトル:リサイクルビジネスのためのDX戦略講座
第1回:「3つの連携」について
資源循環システムズ株式会社
代表取締役社長 林 孝昌
廃棄物処理・リサイクル業界(以下、「リサイクルビジネス」。)は、業界構造変革の時代を迎えており、競争と淘汰の波が押し寄せている。古典的エッセンシャルワーカーとしての役割に加え、新たな価値としてのカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの担い手への転換が求められる中、他社差別化に向けたビジネスモデルの見直しが必須となる。「デジタル・トランスフォーメーション」(以下、「DX」。)は、そのための強力な武器として位置付けられる。
DXへの挑戦は、デジタルツール導入のみならず、自社の立ち位置確認、事業プロセス見直しや経営課題抽出等が前提となる。自社の強みと弱みを再認識することで、コンプライアンスや事務効率化、顧客・取引先の拡大、付加価値の高い独自サービスや製品の確立等が可能となるからである。だからこそ、会社の規模や業態を問わず、経営者から現場作業員までが同じ方向を向いて足並みを揃えるための道標を描く必要がある。
本連載では、リサイクルビジネスによるDX戦略策定に向けた視点やヒントを提供していく所存である。今回は、DX導入が促す「3つの連携」について取り上げる。
まず、規制業界である以上避けて通れない課題が「官民連携」である。端的に言えば、定期更新が必要な許可、法的に要求される契約、マニフェスト管理、行政報告等について自治体と情報連携が不可欠となる。排出から処分に至るプロセスで、その実質的な情報管理責任を負うのはリサイクルビジネスであり、無駄に足許をすくわれないためのコンプライアンス対応徹底が望まれる。ただし、現時点では行政側の情報提供・受入体制が不十分なこともあり、自社システム内部での証拠作りの範囲に留まっている。典型的な協調領域である「官民連携」については、むしろ民間主導で行政側に働きかけを行うことで、共同利用型のプラットフォーム整備等を急ぐべきである。
次に「業界内連携」である。我が国では地域単位で許可を持つ収集運搬業者の数が圧倒的に多く、処分業者や再生処理事業者との間で逆有償・有価を含む複雑な取引体制が維持されている。ただし、そのプロセスには未だ不透明な事例も散見されており、従前からの慣例や長期的な付き合いを背景に、単価設定や契約レベルでも合理的ではないケースが多い。現状維持の打破にはリスクと改善ポテンシャルがあることを鑑みると、DX導入を契機に顧客や取引先との連携体制を見直すことが有効である。今後は自社が動かなくとも、競合が動き始めるとの危機感を背景に、現状を客観的に把握するための情報連携を行うべきである。
最後に、「動静脈連携」の重要性もかつてなく高まっている。動脈側の製造業者に対しては、その事業活動プロセスで必要なエネルギーの脱炭素化や、製品に利用する再生素材の利用拡大圧力が高まっており、原燃料製造を担うリサイクルビジネスとの情報連携が重要となる。安定した工場操業や製品への利活用には木目細かな情報管理を通じた原燃料の品質管理が課題であり、排出者からの一貫したトレーサビリティ確保はむしろ製造業の側が求めているため、そのニーズに応えていくことが、新たな事業機会の拡大をもたらす。
以上に示した「3つの連携」は、リサイクルビジネスによるDX導入の必然性を端的に示す典型的な事例と言えよう。
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